君を愛す ただ君を……
越智君は落ち着いて言葉を紡ぎだしているけど、その言葉尻からひしひしと親に対する怒りを感じさせていた

相当、母親に対して怒っている

淡々と話を続けている越智君が、怖かった

「俺はきちんと約束をしたんだ。成績も落とさないし、医学部への進学もきちんとするって。親の期待に応える代わりに、俺が部活をしようが、恋人を作ろうが文句は言うなって。まずは期末試験の結果を見てくれって。部活を続けてても、成績を落とさない自信があると俺は言い切ったんだ。なのに、結果が出る前に、涼宮に別れろと言いに行くなんて、契約違反もいいところだ」

越智君の唇があたしの首筋に当たる

チュッと吸い上げる音がすると、あたしの背筋がゾワゾワっとした

「約束を破ったのはあっちが先なんだ。俺は、俺の考えを認めてもらえるまでは、家にも帰らないし、医学部にも進学しない」

「越智君、怒らないで。きっとお母さんも必死なんだよ」

「必死だからって、全てが許される行為じゃないだろ。涼宮は、誰に対しても優しすぎる。俺は、俺の母親だからこそ許される行為じゃないと思ってる。なんでも子供に押しつければいいって問題じゃないだろ? 俺は、『俺』という個人であり、一人の人間だ。感情もあるし、夢や願い、欲望だってある。母親だからっていう理由だけで、俺の気持ちを無視して、排除する権限はない」

それでもあたしは、越智君とお母さんが喧嘩して欲しくないよ

仲良くしてほしい

きっと話せば、お母さんの気持ちもわかってあげられると思う

たぶん……きっと、理解できると思うんだ

「越智君、本当に家には帰らないの?」

「ああ。当分、このホテルにいるよ。携帯も電源を切るから、用があるときはホテルに電話して」

いいの?

越智君は、それで本当にいいの?

両親に背を向けて、生活するのってすごく大変なんじゃないの?

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