君を愛す ただ君を……
愁一郎は何か言いたそうに、眉をひくひくと動かしてから、「ふぅ」と息を吐き出した

前髪を掻き揚げてから、あたしの隣に腰を下ろした

「ちゃんと話しあっただろ?」

愁一郎が、あたしの手を握りしめた

『愛人かしら?』
『遊びのつもりが…妊娠しちゃって感じ?』

まわりに座っている人たちの詮索の声が、ぼそぼそと聞こえてくる

「…ん、でもやっぱり堕ろせなかった。これ、今日、撮った写真だよ」

あたしは鞄の中から、白黒の写真を愁一郎に渡した

小さな…小さな赤ちゃんが映っている

愁一郎が、感熱紙の写真を見てから、あたしの顔を辛そうに見てきた

「陽菜、無事に産める可能性は20%以下なんだぞ。そんな危険な……まるで賭けごとみたいな出産なんて…俺は望んでない」

「手術台にね…座れなかったの。近寄れなかった。あたし、ここであの台に座ったら、絶対に後悔をするって思った。そしたら口が勝手に『産みます』って先生に言ってた」

「陽菜っ!」

「愁一郎が言いたいことはわかってる。大丈夫…って気がする。今のあたしなら、絶対に産めるって気がするの。赤ちゃんもあたしも、死んだりしない」

「俺、一人で子育てなんてできないからな」

「…大丈夫。愁一郎を一人になんかさせないよ。来年は、三人でドイツに行こう」

「ああ。三人で、行こう」

愁一郎が、あたしの肩を抱き寄せると額にキスをした

まわりから、パチパチと拍手が聞こえて、あたしと愁一郎はぱっと身体を離した

まわりに座っている人々が、あたしたちの会話を聞いて、拍手をしたみたいだ

あたしと愁一郎は顔を赤くすると、ぺこぺこと頭を振った

「なんだか、よくわからないけど…頑張んなさいよ」

近くにいたおばちゃんに、愁一郎が肩をばしっと叩かれていた

愁一郎は「はい」と返事をすると、あたしと目を合わせて笑い合った

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