君を愛す ただ君を……
先生は苦笑すると、首の後ろを手で押さえた

「息子の言葉にいちいち引っかかるなんて……」

「え?」

「愁一郎って大抵の人には、苗字で呼ぶんだ。アキちゃんなら、『南さん』って。なのにいきなり『アキさん』なんて呼んだり。寝床の用意をしにいったアキちゃんを追いかけて、楽しそうに笑って」

先生は、がくっと首を落とすと後頭部の後ろをガシガシと掻いた

先生が顔をあげて、「はあ」と息を吐いた

「息子にアキちゃんを取られたくないって思うなんて……。おじさんになっても、父親になっても、独占欲とか嫉妬心とか…あるんだなあって今、理解した」

私は「ぷっ」と噴き出すと、先生の布団に顔をつけてケラケラと笑いだした

「アキちゃん?」

「先生…面白すぎ」

「え?」

先生が不思議そうな顔をした

笑いながら、先生の布団からは先生の匂いがして、胸の奥がドキドキした

きっと先生に抱きしめられたら、すごく安心して、幸せなんだろうなあなんて頭の片隅で考えてしまう私がいた

「先生……奥さんがいたのに、独占欲や嫉妬心に気づかないなんて…」

「長く一緒にいると忘れちゃうんだろうね。感覚が麻痺するのかな? 妻が浮気してても何も感じなかったのになあ」

「え?」

私はばっと顔を上げると、先生の座っている姿を見つめた

「浮気…ですか?」

「たぶん…だけどね。たまに、妻の服から知らない男物のコロンが香ったから」

「もしかして先生に嫉妬してもらいたくて、コロンをつけていたかも…しれないですね。ちゃんと嫉妬してあげました?」

先生は首を左右に振った

「知らないふりをしたよ。それで、妻の心が平穏になるなら…って」

「そこで嫉妬して、ガバッてベッドに連れ込まなくちゃ! 先生と奥さんって二人とも不器用ですよ。悪循環なことばっかりしてるし。勿体ないなあ」

「ベットに連れ込むような年じゃないでしょ、僕ら」

「ああ…それがいけないんですよ。何歳になったって、男は男でいたいし、女も女でいたい。夫婦の夜の時間って、すごく大切だと思いますよ」

先生が凄く寂しそうな顔をした

「アキちゃん、それもっと早く僕に教えてよ」

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