幕末Drug。


慣れない下駄を履いて、私達は京の町に出た。

…とは言え、現代のように華やかな建物が立ち並んでいる訳ではない。
まるで、時代劇のセットの様な町並み。

『す…凄い。』

5分に1回のペースで、雛がそう漏らす。

趣深くて、質素で、どこか懐かしさを感じさせる京の町。

人通りの多い場所に出てくると、私はある異変に気付いた。

『なんか…見られてる気がする。』

控え目ながら、遠巻きから探るような視線。


『気にしない、気にしない。多分、物凄く身分の高い人だと思われてるだけだから。』

沖田さんが愉しげに答える。

『髪の色も違うし、お化粧もしてるし、綺麗な着物も着てるし。更には、新撰組副長の護衛付き。…何処かの国の姫様だと思われてるかもね。』

沖田さんの言葉に、雛が視線を土方さんに向ける。

『土方さんて…有名なんですね。』

『別に…ンな『うんうん、目付きも中身も鬼だって超有名。』

土方さんの言葉を遮り、沖田さんが答える。

『…総司。』

眉を寄せ、土方さんが沖田さんを睨む。

『ま、今日はお姫様になりきって楽しんでいってよ。』

その視線を気にすることなく、沖田さんは笑みを見せる。

そんな雑談をしている内に、不意にお茶の良い香りが漂ってきた。


『あっちに見えるのが、新しく出来たお茶屋さんだよ。』

沖田さんが真っ直ぐ指をさす。

『わーい!美穂、お団子食べよっ?あんなに混んでるんだから、絶対美味しいよ!!』

私達が居る場所から50m程離れた場所に、人で賑わう1軒の店があった。息着く隙も無いほど、次から次へと人が出入りしている。
その様子に雛は完全に浮かれモードだ。


『一押しは、みたらし団子らしいよ。』

沖田さんの言う通り、擦れ違う人達は皆片手にみたらし団子を持っていた。現代のお団子よりも、一回りくらい大きい。

店先に着くと、沖田さんが店内に向かって軽く手を振った。


『…あ!沖田さん!!』


不意に元気な声が響く。そして、そこには一人の女性がお盆を持って立っていた。
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