幕末Drug。
沖田さんが思案を巡らせつつ小さく唸る。

『彼女、江戸から来たって言ってましたよね?何故お兄さんが京に居るって分かったんですか?』

私はふと浮かんだ小さな疑問を、沖田さんに投げかけてみた。

『母親が病で倒れた時、教えてくれたらしいよ。まあ…詳しい事は本人に聞かないと分からないけどね。…って事で土方さん、今晩彼女を屯所に連れてっても良いですよね?』

沖田さんの言葉に刹那頷くのを躊躇うものの、渋々首を縦に振る土方さん。

『此処まで持て成して貰ったんだ…やるからには徹底的に調べ上げないと、な。…但し、緊急事態が起きた場合はそっちが優先だ。…良いな?』


他人に有無を言わせぬ物言いは沖田さんにも有効だった様で

『はーい。』

と珍しく素直に返事をしていた。

『…それじゃ、行くか。』

私達は席を立ち、藍さんに今晩迎えに来る旨を伝えて店を後にした。
藍さんは風呂敷に包んだお団子を雛へと渡すと、私達が見えなくなるまでずっと見送りをしてくれていた。

『…良い子ですね。』

私は小さく呟いた。
あんなに素直で、明るくて、一生懸命な女の子は中々居ない。正直、羨ましいと思ってしまった。

『…君も、充分良い子だよ。』

隣を歩く沖田さんが、優しい眼差しで私を見つめる。

『土方さんを説得出来たのも、君のお陰。…本当に、ありがとう。』

珍しく沖田さんが真剣な口調で告げるものだから、私の胸は小さく高鳴った。だけど…これも全て藍さんの為にしてることなんだと思ったら、沸き上がった淡い気持ちは一瞬にして醜く歪んでいった。


沖田さんは…藍さんが好きなのかな?


そんな事を考えながら、私は空を見上げた。夕暮れ間近の空は既に紫色へと変化しつつある。
京の町の空は陰りが無くて綺麗だなー…なんて思った、其の時−−−−



『…壬生狼が女連れて良いご身分だな。』

暗い路地裏から低い声が響いた。


『綺麗な着物だが…そいつは異国の女か?髪の色も違う様だしなぁ…』


今度は逆の方向から、掠れた男の声が響く。

沖田さんと土方さんは、それぞれ私と雛の前に立ち刀に手を掛けた。

『…良いって言うまで、絶対傍を離れないでね。』

沖田さんの言葉に、私は三回頷いた。
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