アリスズ

 景子は、姉妹の眠る部屋へアディマと一緒に戻ってきた。

 しかし。

 扉を開けると、そこには不思議な光景が待っていたのだ。

 綺麗に着物を着つけた梅と、半裸の身体に毛布をマントのようにまきつけた菊が。

 三つ指ついて、景子をお出迎えしたのだから。

「うわっ、梅さん菊さん、何してるんですか!」

 梅は、まだ身体の具合が思わしくないようだし、菊はあんな格好だ。

 顔なんか、昨日の血でまだ少し汚れている。

 アディマも、二人の不思議な姿を、目を見開いて見つめていた。

「一言、御礼を」

 菊が、重々しく口を開く。

「見ず知らずの私ども姉妹の面倒を見ていただき、本当にありがとうございました」

 梅が、少し顔色のよくなった肌で、穏やかに微笑む。

「おかげでまた、今日も生きながらえることが出来ました」

 二人。

 深々と頭を下げる。

「ちょ、ちょっと待って! そ、そんなのいいから、そんなとこに座ってないで!」

 あわあわと、景子は二人を立ち上がらせようとした。

 正座をして、手までついて頭を下げる。

 日本人としては、最高の御礼の形だろう。

 しかし、大げさすぎる。

 景子はただ、年下の女の子たちの面倒を見ることに、走り回っていただけなのだ。

 いわば、勝手に姉のように、お節介を焼いていただけ。

 こんなにも、感謝されるいわれはなかった。

 親のしつけが、よほどしっかりしている家なのだろう。

 二人とも、無茶苦茶マイペースではあるが。

「あなたたちがいて、私の方がもっと助かってるんだから、そんなことはやめてーー」

 そう。

 こんな世界に、景子一人放り込まれたのなら、ずっとずっとパニックに陥っていただろう。

 昨夜だってうまく切り抜けることが出来ずに、今頃のたれ死んでいたかもしれないのだ。

 言葉の通じる相手が、自分以外にあと二人いる。

 こんなに、心強いことはなかった。

「だから、早く立ってー」

 二人の腕を持って、何とか引っ張り上げようとしている景子は。

 よほど、それが滑稽に映ったのか。

 アディマに、声を出して笑われてしまった。
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