アリスズ
☆
女主人の好奇は、とにかく梅に向けられていた。
彼女の着物が、よほど気になるのだろう。
彼らの服とは、根本から構造の違う直線裁断の和服。
振袖ほどの華美さはないものの、品よく美しく仕上げられている布と柄。
日本人以外が見れば、確かにそれは不思議な衣服だろう。
景子の好奇は──食事そのものに向けられていた。
人というものの、行き着く先の結論は、結局似たようなものなのか、と。
日本食とは似ても似つかないが、過去の世界の海外ならば、見ることが出来るのではないだろうかと思われる、食器や食事内容。
それならば、ここは海外なのか。
肯定するには、昨夜にみたあの黒い月と、見慣れぬ星座が邪魔をしていた。
じゃあ、ここはどこなのか。
多分、景子の知る世界のどこでもないのだと、だんだん理解してきていた。
これまで、菊と梅の世話をして忙しかったために、ゆっくりそんなことを考える暇もなかった。
しかし、どうにかして戻る方法も考えたい。
そこまで考えたわけではなかったのだが、ひとつだけ景子は昨日の場所に目印を置いてきた。
梅の買った、桜の苗だ。
本当は、抱えていこうと思ったのだ。
地面に転がるそれを。
しかし、地面に触れた桜の苗は、いままでよりももっと輝いていて。
ここに根付きたいと、そう景子に言っている気がしたのだ。
桜がそういうのなら、と。
彼女はそれを、草原の中に置いてきたのである。
苗に力と運があるのならば、いつかまた会えるのではないかと思って。
「───」
分からない言葉をBGMに、景子はぼんやりとこれまでのことや、これからどうしようかなどと考えていた。
「ケーコ…──」
はっと。
彼女は、思考を中断して顔を上げる。
会話の中に、自分の名前が出てきたからだ。
見ると、アディマが視線だけを景子に向け、しかし言葉は長く長く続いた。
とても、彼女に向けて語られているものとは思いがたい。
男が、困った顔をした。
女主人は、一度驚いて景子を見た。
一体──何の話をしてるの。
女主人の好奇は、とにかく梅に向けられていた。
彼女の着物が、よほど気になるのだろう。
彼らの服とは、根本から構造の違う直線裁断の和服。
振袖ほどの華美さはないものの、品よく美しく仕上げられている布と柄。
日本人以外が見れば、確かにそれは不思議な衣服だろう。
景子の好奇は──食事そのものに向けられていた。
人というものの、行き着く先の結論は、結局似たようなものなのか、と。
日本食とは似ても似つかないが、過去の世界の海外ならば、見ることが出来るのではないだろうかと思われる、食器や食事内容。
それならば、ここは海外なのか。
肯定するには、昨夜にみたあの黒い月と、見慣れぬ星座が邪魔をしていた。
じゃあ、ここはどこなのか。
多分、景子の知る世界のどこでもないのだと、だんだん理解してきていた。
これまで、菊と梅の世話をして忙しかったために、ゆっくりそんなことを考える暇もなかった。
しかし、どうにかして戻る方法も考えたい。
そこまで考えたわけではなかったのだが、ひとつだけ景子は昨日の場所に目印を置いてきた。
梅の買った、桜の苗だ。
本当は、抱えていこうと思ったのだ。
地面に転がるそれを。
しかし、地面に触れた桜の苗は、いままでよりももっと輝いていて。
ここに根付きたいと、そう景子に言っている気がしたのだ。
桜がそういうのなら、と。
彼女はそれを、草原の中に置いてきたのである。
苗に力と運があるのならば、いつかまた会えるのではないかと思って。
「───」
分からない言葉をBGMに、景子はぼんやりとこれまでのことや、これからどうしようかなどと考えていた。
「ケーコ…──」
はっと。
彼女は、思考を中断して顔を上げる。
会話の中に、自分の名前が出てきたからだ。
見ると、アディマが視線だけを景子に向け、しかし言葉は長く長く続いた。
とても、彼女に向けて語られているものとは思いがたい。
男が、困った顔をした。
女主人は、一度驚いて景子を見た。
一体──何の話をしてるの。