アリスズ
☆
「ふふふ、景子さん…すっかりあの方に、気に入られてしまったみたいですね」
部屋に戻った後、梅がおかしそうに話しかけてくる。
とはいうものの、戻る途中から菊に少し身体を支えてもらっている状態だったが。
三つ指詫び事件の後、ようやく名乗ることが出来、姉妹に名前で呼んでもらえるようになった。
ベッドに腰かけさせられた梅は、菊によって帯を解かれている。
「気に入られて…ねぇ」
確かに、その言葉が一番近いのかもしれない。
懐かれている、とはまた違う。
景子を、上でも下でもなく対等に扱ってくれている気がするのだ。
「これからのお話ですけど…」
菊に着物を脱がされながら、梅は少し口調を神妙なものに変えた。
ようやく、未来の話が出来る環境になったのだろう。
景子も、ほんの少し前から考え始めようとしていた。
「私…この屋敷に、残りたいと思っています」
梅の言葉に。
菊と景子の、二人が止まった。
残る?
菊がどうかは知らないが、景子はその意味を把握できなかったからだ。
残るということは、行く者もいるわけで。
その相関が、頭に上手に並べられなかったのである。
「おそらく、あの方たちはまた旅立たれると思います」
袖で、彼女は菊を促した。
まだ着物は、脱がせかけだったのだ。
菊はそれに、少し不満そうな顔をしたものの、作業の続きを始めた。
「ついて行きたい気持ちは山々なのですが、どれほど遠い旅なのか分かりません。私では、足手まといになります」
彼女の言葉に、どうコメントしたらいいのか分からなかった。
梅を知る菊のコメントを待ったが、口を開くことはなく。
それに。
「梅さんが残るなら…私達も残ってもいいのでは?」
彼女を、置いていく選択肢ばかりではないはずだ。
大体。
ついていく理由の方が、ないのだから。
すると、梅と菊は一度顔を見合わせた。
そして、二人で景子の方を見るのである。
「景子さんは…連れていく気みたいですよ」
あの食堂のやり取りと気配から──梅は一体何を読み取ったのか。
「ふふふ、景子さん…すっかりあの方に、気に入られてしまったみたいですね」
部屋に戻った後、梅がおかしそうに話しかけてくる。
とはいうものの、戻る途中から菊に少し身体を支えてもらっている状態だったが。
三つ指詫び事件の後、ようやく名乗ることが出来、姉妹に名前で呼んでもらえるようになった。
ベッドに腰かけさせられた梅は、菊によって帯を解かれている。
「気に入られて…ねぇ」
確かに、その言葉が一番近いのかもしれない。
懐かれている、とはまた違う。
景子を、上でも下でもなく対等に扱ってくれている気がするのだ。
「これからのお話ですけど…」
菊に着物を脱がされながら、梅は少し口調を神妙なものに変えた。
ようやく、未来の話が出来る環境になったのだろう。
景子も、ほんの少し前から考え始めようとしていた。
「私…この屋敷に、残りたいと思っています」
梅の言葉に。
菊と景子の、二人が止まった。
残る?
菊がどうかは知らないが、景子はその意味を把握できなかったからだ。
残るということは、行く者もいるわけで。
その相関が、頭に上手に並べられなかったのである。
「おそらく、あの方たちはまた旅立たれると思います」
袖で、彼女は菊を促した。
まだ着物は、脱がせかけだったのだ。
菊はそれに、少し不満そうな顔をしたものの、作業の続きを始めた。
「ついて行きたい気持ちは山々なのですが、どれほど遠い旅なのか分かりません。私では、足手まといになります」
彼女の言葉に、どうコメントしたらいいのか分からなかった。
梅を知る菊のコメントを待ったが、口を開くことはなく。
それに。
「梅さんが残るなら…私達も残ってもいいのでは?」
彼女を、置いていく選択肢ばかりではないはずだ。
大体。
ついていく理由の方が、ないのだから。
すると、梅と菊は一度顔を見合わせた。
そして、二人で景子の方を見るのである。
「景子さんは…連れていく気みたいですよ」
あの食堂のやり取りと気配から──梅は一体何を読み取ったのか。