アリスズ

「なあ、ダイ…リサーって何言ってるんだ?」

 菊は、分からない言葉に辟易したように、ダイに話を振った。

 リサーは、話の腰を折られ、不満そうだ。

 しかし、言葉をだらだら続けたところで、意味が分からないのだから、それこそ無意味ではないか。

 すると。

 ダイは、片手を口のところにあて、鳥のくちばしのようにパクパクと動かして見せた。

 ああ。

 言いたいことが、何となくそれで伝わる。

 リサーは、人に何かを教えるのには向かないな。

 菊は、そうバッサリと彼の能力を切った。

 プライドが邪魔しているのか、分かりやすく伝えようという気が少ないのだ。

 さっき名乗る時も、しょうがなくという感じだったし。

 シャンデルという女も、同系列のようだった。

 要するに。

 日本語を使わずに、こっちの言葉を覚えろとかなんとか。

 おそらく、そういう意味合いの説教だったのだろう。

 覚えろって言われても、ね。

 勉学は人並みだが、梅のような空気を読む能力は高くない。

「そっかあ、言葉かあ」

 ダイのゼスチャーは、景子にも伝わったようで。

 彼女も、うーんと唸っている。

 こんな時に梅がいたらと思うが、相方は自分の便利品ではない。

 自力で、何とかしなければならないだろう。

 しゃべれないより、しゃべれた方が都合がいいに決まっているのだから。

 しかし。

 旅のメンツをぐるりと見た時。

 言葉を教えてくれるのに適した人間が、いるようには思えなかった。

 ダイは、菊と同系列の人間だから、身体で分かるタイプだ。

 かろうじて御曹司が及第点だが、リサーやシャンデルがそれを許してくれるとは思えない。

 ああ、そうか。

 そして、菊は隣を見た。

 うなっている、景子である。

「ん? どうかしたの?」

 視線に気づいた彼女に、菊はこう言ってみた。

「あの御曹司に、言葉を教えてもらう気はない?」

 菊は、それを門前の小僧でもしようともくろんだのだ。

「え…えええ…」

 景子は何故か──頬を赤らめてしまった。
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