アリスズ

 ブロズロッズへの門は、固く閉ざされていた。

 景子たちのように、入ることを待たされている人たちが大勢外にいる。

「どうなってるんですか?」

 近くにいた年配の女性に、景子は問いかけてみた。

「ああ、何でも偉い人が神殿に入るとかで、その入殿の儀式が終わるまで、出入りを止められてるんだよ」

 おしゃべり好きらしい彼女は、心底困った顔で、ぺらぺらと彼女に教えてくれる。

 ふんふん。

 景子は、これまで聞いてきたことを頭の中で組み立てながら、納得していた。

 ブロズロッズというところには、『捧櫛の祭壇』というものがあるらしい。

 そこは立派な神殿で、毎年多くの人々が巡礼に来るという。

 いわゆる、宗教都市だ。

 ただし、祭壇に入れるものはごく一部ということで、一般人の巡礼者用には別の神殿が用意されているらしいが。

 もしかして。

 景子の胸が、微かに高鳴った。

 もしかして、その偉い人っていうのは──

 景子の頭に、アディマが浮かんだ。

 身体こそ小さいが、瞳の奥の深い人。

 何事もなければ、おそらく彼女たちよりも速く到着しているだろう。

『捧櫛の祭壇』

 アディマは、あの時そう言ったのではないか。

 初めて、旅の行き先を聞いた時。

 いまとなっては、音の一粒も思い出せない。

 だが、アディマであればいいと、心から願ったのだ。

 彼だとするのならば、無事に到着したということになるのだから。

「どうだって?」

 菊が、人の群れを見ながら、景子に問いかける。

 彼女はまだ、会話は苦手のようだ。

「ああ、うん…誰かの儀式が終わるまで、人の出入りは…」

 そこまで言いかけた時。

「これより開門いたす!」

 門の衛兵が、大きな大きな声を上げた。

 人々の顔がぱっと明るくなり、立ち上がったり人を呼んだりし始める。

「あれ……入れるみたい」

 絶妙なタイミングに、逆に景子があっけにとられてしまった。
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