ロシアンルーレット【コミカルアクション】
 俺を見詰める彼女の瞳は、汚れとか憎しみとか…そういったこの世の様々な邪心とは全く無縁で、まるで晴れた日の澄みきった青空のようだった。


 俺のさっきまでの怒りや苛立ちは、その瞬間消失し、すぐに彼女の手首から俺の汚い手を離した。


 俺がアスファルトの上に転がる、中身が空になってしまった紙のカップに目をやると、彼女も俺の視線を追い、そして残念そうに、ただのゴミと化してしまったそれを拾った。


 彼女が来たであろう方向を見やると、本屋の前に設置してある自動販売機が目に留まった。


 俺は彼女に向かって、その自販機を指差し、


「新しいやつ、買ってやるよ。」


 と言ってみた。


 彼女はまた不思議そうに俺を見詰めた。


 やっぱ通じないか。


 俺は仕方なく、また彼女の手首を今度はそっとつかみ、自販機の前まで連れていった。


 そしてGパンのポケットを探り、なけなしの小銭を取り出して、自販機に入れ、彼女に買うように合図した。


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