治癒術師さんに取り憑いた魔導師さん


深くは覗かなかった、悪意はなかった。だからのうっかりと、だ。


そのうっかりの部分で知ってしまうことは。


「人形になった方が良い。いつまでも、思い出に殺されるのはきついだろうし。誰にも知られたくない秘密を持つならば、口は動かない方がぐっと楽だ」


彼女に近づく、近づいた。


ヒールの靴がかつかつとなる。


白タイルから、バラの園に足を入れれば、土を踏む感触。


「そなたは余が“大切”にしてやろう。このバラと同じく、美しいままにさせてやるから安心するが良い。

愛してやろうぞ、ユーリ。そなたは、余に愛されるだけの価値はある。シブリールが愛した女だ、余とて人並みの思いが――」



足から、力が、抜けた。


突如の異変は、瞬間的に連続する。


下半身全ての力が抜けた。上半身、右側に至っては力が入るというのに――ごっそりと体が抜け落ちたような気分。



< 348 / 411 >

この作品をシェア

pagetop