春夜姫
まあ、と感激の声を漏らした春夜と、きりりとした表情で立つクロとを、夏空は交互に見比べました。そして言いました。
「何か、思い違いをされていませんか。姫は、クロさんと会ったのだから、これで城に帰られますね。南へ行くのは僕だけだ」
すると春夜姫も驚いた顔をしました。
「私も参りますわ。夏空様と一緒に。ええ、クロさんとも」
「なぜです。この先は魔の森を迂回して進むとはいえ、何が起こるか解らぬ道。姫をそんな危険にさらすわけにはいかない。お父上、お母上もご心配されているのに」
夏空は一息に言って、それからはっとしました。春夜が長いまつ毛を震わせています。
「姫」
「夏空様といたいから、という理由ではだめですか」
春夜はじっと夏空を見つめました。大きな瞳を潤ませて。こうなると男というものは女には勝てません。それをわかっている狩人は、若い二人を見て頭を掻きました。
「危うい道ですよ。遠い道ですよ」
狩人が言います。春夜姫は頷きました。
「わかっています。夏空様の足を引っ張るようなことはいたしません」
夏空はぐっと顎を引きます。
「私も見たいのです。夏空様が生まれ育った国を。この国とは違う鮮やかな景色を、夏空様とともに」
クロは夏空を見上げました。その視線に気付き、夏空は頭を撫でます。クロはワン、と一つ声を上げました。狩人はそれを聞いて笑みをこぼしました。
「何と?」
「姫様がいないのならば、行かない」
「ほら、夏空様」
夏空は、わかりました、と言うほかありません。すっと足を引き、膝を立てました。
「何か、思い違いをされていませんか。姫は、クロさんと会ったのだから、これで城に帰られますね。南へ行くのは僕だけだ」
すると春夜姫も驚いた顔をしました。
「私も参りますわ。夏空様と一緒に。ええ、クロさんとも」
「なぜです。この先は魔の森を迂回して進むとはいえ、何が起こるか解らぬ道。姫をそんな危険にさらすわけにはいかない。お父上、お母上もご心配されているのに」
夏空は一息に言って、それからはっとしました。春夜が長いまつ毛を震わせています。
「姫」
「夏空様といたいから、という理由ではだめですか」
春夜はじっと夏空を見つめました。大きな瞳を潤ませて。こうなると男というものは女には勝てません。それをわかっている狩人は、若い二人を見て頭を掻きました。
「危うい道ですよ。遠い道ですよ」
狩人が言います。春夜姫は頷きました。
「わかっています。夏空様の足を引っ張るようなことはいたしません」
夏空はぐっと顎を引きます。
「私も見たいのです。夏空様が生まれ育った国を。この国とは違う鮮やかな景色を、夏空様とともに」
クロは夏空を見上げました。その視線に気付き、夏空は頭を撫でます。クロはワン、と一つ声を上げました。狩人はそれを聞いて笑みをこぼしました。
「何と?」
「姫様がいないのならば、行かない」
「ほら、夏空様」
夏空は、わかりました、と言うほかありません。すっと足を引き、膝を立てました。