春夜姫
 春夜は荷物の中から何かをごそごそと取り出しました。それは、もう一組の魔法の長靴でした。
 目を丸くしている夏空をよそに、春夜はクロを手招きし、前脚にそれを履かせました。長靴はまた、クロの足の大きさに縮みました。
「何かあるかと思い、持ってまいりましたの」
 春夜はにっこりと言いました。

 クロを先頭に、一行は旅立ちました。
 狩人は一行の姿が見えなくなるまで、粉雪の舞う中に立ち続けていました。もうクロに会うことはないかもしれないと思うと瞼が熱くなりました。
 坊やがクロと遊ぼうと、探していました。坊やは夏空と春夜には会っていません。
「クロは旅に出たよ」
 狩人は優しく言いました。
「どこへ?」
「南の国だ」
 坊やは南へと目を向けます。その先の森には、父と一緒でなければ絶対に入ってはいけないと言われてきました。恐ろしいものたちがその奥に住んでいるのです。
「心配いらないよ。クロは、父さんよりもあの森のことを知っているからね」
 坊やはしっかりと頷きました。
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