春夜姫
 二人はしばらく話をして、それで別れました。
 十歩も歩いた頃でしょうか、夏空は何とはなしに振り返ってみましたが、そこにはおじいさんの姿はありませんでした。

 夏空の行く手遥かに、鬱蒼とした森が広がっています。

* * *

 夏空はその後もずっと北を目指しました。国のためになるものは何だろう、と常に考え、出会う人々にも声をかけました。

 ある人は、美しい牛があれば国が富むだろう、と言いました。またある人は、何でも治す薬になる木があると良い、と言いました。

 夏空は丁寧にお礼を言って、その人たちのために歌を歌いました。心が安らぐような歌、勇気の出る歌、明るい気持ちになる歌。人々はたいそう喜んでくれましたが、夏空は未だに探すべきものを見出せずにいました。もっと何か、別のものがあるような気がしていたのです。
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