春夜姫
 ついに夏空は森の入り口までやって来ました。見ると、普通の森とは何の変わりもないような、明るい森です。葉が赤や黄色に色付いた木々がまばらに生え、下生えもよく手入れがされています。近くに住む者が行なっているのでしょう。

「行くのかね」
 ふいに声をかけられ、夏空は驚きながら声のした方を向きました。

「あなたは」
 この間助けた、白いひげのおじいさんが立っていました。夏空はおじいさんに駆け寄りました。

「森に入るのかね」
「ええ。行きます」
 夏空はしっかりと頷きました。おじいさんは夏空の手を、両手で固く握ります。

「ここから見える限りは、ただの森じゃが、すぐに薄暗くお前さんの知らないような世界が訪れるじゃろう。良いか、気をしっかり持つことじゃ。何があっても、解決の道は必ずある」
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