春夜姫
 そう言うと、森の木々がさっと分かれ、道が現れました。北へ伸びる道です。
「さあ行くのじゃ、若者よ。お前の行く先に、お前の望むものがある」

 体の奥から力がみなぎり、夏空は走り出しました。その顔は希望に満ちていました。

 やがて夏空の背中が見えなくなるまで、おじいさんはそこに立っていました。北国にはもうすぐ、冬がやって来ます。

「どうかあの子を救っておくれ」
 おじいさんがぽつりとこぼしました。

 夏空が城を出て、三十日目のことでした。





 その頃、お城では大変なことが起こっていましたが、今お話するのはやめておきましょう。






< 47 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop