春夜姫
 どれほど歩いたでしょうか。森はだんだん暗くなり、夏空はその日眠る場所を探していました。

「おや、あれは何だろう」
 夏空は森の中に小さな灯かりを見つけました。どうやら家があるようです。
 ここは魔の森ということはわかっていますが、夜になる心細さから足はそちらに向き、屋根の下で眠れるだろうという期待から胸が弾み、最後にお腹も鳴りました。


 夏空がその家の戸を叩こうとした時です。
「誰だい」
 しわがれた声が中から聞こえました。

「私はここから南に三十日歩いたところにある国の王子です。北へ旅をしているのですが、今日眠る場所を探していて、ここへたどり着きました。どうか、一晩泊めていただけませんか」
 夏空はそう名乗り、宿を求めました。
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