春夜姫
「縄をほどいて欲しい」
 と夏空が何度言っても、それは笑い飛ばされるか、時には見えない鞭で打たれました。

 夏空はだんだんと惨めな気持ちになりました。王子として生まれてから、厳しい訓練などもありましたが、これほどの辱めは受けたことがありません。
 しかし、何か言えばまた、笑われるか打たれるかしましょう。

 はっと、夏空は白髭のおじいさんの言葉を思い出しました。
 ――お前さんの好きな歌でも。

 夏空は鼻から息を吸い、お腹に空気を貯めると、よく通る声で歌い始めました。

『日がさすところ
 広がる希望
 一かけらの夢
 開け、開けよ
 光よ満ちよ』

 魔女たちは、少し怯みましたが、顔を見合わせると一斉に笑い出しました。夏空の歌声はかき消されてしまい、魔女の一人が杖を振ると、夏空の上下の唇がくっついてしまいました。言葉が出ません。
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