春夜姫
 夏空は身の上を話しました。
「僕は人間で、南の国の第三王子です。夏空とお呼び下さい。父の命令により、僕たち兄弟はそれぞれ旅に出ました」

 国のためになるものを探す旅。二人の兄はもう見つけたのだろうか。

「北を目指した僕は、進むがままに魔の森へ入りました。魔女の集会に居合わせてしまい……」
「その姿に」
 夏空はクロの言葉にうなずきました。

「姿もそうですが、僕は歌声を奪われました。話すことは出来るのに、以前のように歌えません。声に魔法をかけられた姫君が、この国にいると耳にしました」
「春夜姫」
「はい。姫君に会えば、何かわかるのではないかと」

 クロは夏空をじっと見下ろしました。
「美しい姫様だ」
 それから首を上げて、小屋の外へ出ました。夏空もその跡を追います。

 クロは魔の森の方を見つめていました。南側の入り口がそうだったように、こちらからも一見は何の変哲もない静かな森です。
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