春夜姫
「姫様は魔女に声を取られて、声は小さな瓶に入れられてしまった」
「瓶」
「その瓶を開けることが出来たら、姫様は声を取り戻せるんだ」

 自分の歌声も、何かに入れられているのだろうか。夏空は頭の片隅で考えました。

「しかし、それは七年の間の話。姫様が十七歳になる春までの話」
 ご主人は、壁の向こうの外を見つめました。
「今夜あたり、雪が降って来るだろう。雪が降り、積もり、国中を覆い尽し、その雪が溶けたら春が来る。今度の春は、国中が悲嘆に暮れる春だよ」

「瓶を開ければ良いのではないですか」

「開けようとしたさ。俺は、斧をいくつもダメにしたし、銃の弾も通らない。クロの牙は欠けてしまった。もう何百、何千、何万回も、手を変え人を変え試したよ」

 けれども、開かなかった。壊れなかった。
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