春夜姫
 夜が明けました。あてがわれた毛布の上で、久々にゆったりと眠っていた夏空は、クロに呼ばれて目を覚ましました。

「南の国の王子様は、この景色をどう思うだろうか」
 クロと共に見た窓の外は、昨日とはまるで様子が違っていました。焼き菓子に粉砂糖を振りかけたような、白い世界が広がっています。

「雪、ですね」
 うっとりした声で夏空が言います。
「僕のふるさとでは、国の北の端へ行って、こんな景色が年に数日見られるかどうかです」
「そうか。これはまだまだ冬の始まりだ。これからもっと寒くなり、人の足が埋まるほど雪が積もるようになる」
「そんなに……」
「王城のある北へ行けば、人の背丈ほど、山では人の背丈の二倍、三倍もの高さに雪が積もるそうだ」

 王城のある北。
 夏空は空の明るい方から左へ目を移しました。

「そう、あちらが北だ。君の目指す方角だ」
 クロが同じ方を向き、呟くように言いました。
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