春夜姫
 夏空は思い切って外に出ました。羽毛が身を守っているので、懸念したほどには寒さを感じませんでした。
 地面に降りると、雪は静かに溶け、土色に足形がつきました。夏空は翼を広げると、羽を一枚抜き取りました。土に触れず、雪だけに触れるように丁寧に汚れを落とすと、鮮やかに青い羽が現れました。

「これを皆さんに。僕の国では、鮮やかな色の鳥の羽は装飾品として使われます。中でも青い鳥は、幸せを運ぶ鳥として重宝されているのです。皆さんに幸せが訪れますように」
 夏空はそう言って、クロに羽を捧げました。

 クロは羽を受け取りました。
「ご主人に渡しておこう」
「お願いします。今までは、歌でお礼をしていました。歌声を奪われ、お聞かせできず残念です」
 夏空が肩を落とします。
「なに、その自慢の歌声を取り返すために、姫様に会いに行くんだろう」
 クロが笑って励ましました。

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