春夜姫
 汚れた翼を羽ばたかせ、夏空は空に舞い上がりました。
「今度会う時は、歌を聞かせてくれ」
「はい。きっと」
「姫様によろしくな。あの方はご主人たち人間の、この国の未来の希望だ」

 北の空へ消えていく小さな影を、クロは耳を立てて見送っていました。目覚めた坊やが「鳥さんは?」とご主人と奥さんに尋ねています。クロは青く美しい羽をくわえ、家の中に入りました。




 夏空は大空を飛んでいきます。が、あまり速く飛び過ぎたり、羽ばたく回数が多すぎたりするとすぐに疲れてしまいます。はやる気持ちを抑えながら、夏空は人が歩くのと同じくらいの速さで進んでいきました。

 クロと別れて三日、城を出て四十五日目の昼。夏空の行く手に、背の高い建物が見えました。まだほんの、人間の小指の爪ほどの大きさです。が、北の国の王様が住むお城に違いありません。
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