レイコーン
学校の図書館で借りた本を開らき、待つことにすると、
本に一滴の染みができていることに気がついた。
 
ぽつぽつと雨が降ってきたようだ。
マールが手のひらを表にすると確かな感覚がそこにあった。
 
 
「本、濡れちゃうかな。」
 
 
周囲も傘を差して待つ気でいる。
 
手にしていた本を閉じ、マールは雨が振る中、
傘をさし自分の家へと向かうバスが来るのを待ってた。
 
ひとつ、またひとつとバスがやってきて
それぞれそのバスを待ちわびていた人を連れ送って行く。
 
もう、マール以外に待ち人はいないようだ。
自分だけ舞踏会に連れて行ってもらえななかったシンデレラの気持ちがよく分かる。

 

ここで聞こえるのは雨音だけ。
傘で隠れた視界から見える雨粒は
妙にやさしい。

 

これで寒くなかったのなら彼は眠っていただろう。
だけど、やさしさとは裏腹に10月の雨は冷たく、
バス停で立っている人間の心をくじく。

 

終礼後20分以上経ち
乗客がいない他のバスまで何台も走り去って行った。

 

両親お迎え組も
校門前にいた家族に連れられ、
校舎の周辺は人影がない。

 

バスステーションから見えていた学校は
ともし火を失った灯台のように聳え立ち 
校舎に取り付けてある大きな時計は
年をとった病人のように暗く沈んで見えた。

 

「…来るのが遅い。」

 
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