レイコーン
「まずマッコリーさんに挨拶し…。」
マッコリーニさんってのは運転手さんの名前だ。
小太りの20代の男性でいつもギャンブル雑誌を片手に持っている。
子ども目線でもなんとなく駄目な大人を連想させる人間だった。
普段ならマールはマッコリーさんに挨拶はしない。
いや、していても他の生徒達の声にさえぎられ届かないというのが正しいのだろう。
いつもなら列になってバスの乗り込むと
マールのか細い声は声の大きな体格の良い男子にさえぎられ、
ぞんざいな扱いとなる。
でも、今日はひとり。
ちゃんと挨拶しなきゃいけないなと気合が入る。
彼の挨拶デビュー。なんだか、どきどきする。
さっきまで、灰色じみていた空の色も
傘に気を使っているうちに気がついてみると黒く染まっている。
気が滅入る。風もかなり強くなって吹いてきた。
さらに10分。20分。
待てど暮らせどバスがやってくる気配はない。
バスステーションの周りの道はずいぶん濡れて色が変わってしまっている。
何台も何台もバスは来ていたけれど全部ハズレ。
ハズレのバスの姿を見るたびに反応してしまうのはうんざりだ。
マールは
地団駄を踏みながらボソッと言う。
「まだかな。」
雨にうたれたわけでもないのに髪の毛が
まるで海に浮かぶわかめのようにしなびていた。
もう10月になろうというこの時期
雨に降られれば足元は冷たく
なかなか従順に待っていられない。