レイコーン
バスの中は
外が大雨の日のためなのか、
それともマールひとりだけしかいないせいなのか
妙に薄暗く、がらんとしていてとても静かだ。
マールの激しい息遣いが
車両内どこにいても聞き取れる。
早く、呼吸を整えたい。
なぜか、そんな心理が働き、胸を押さえた。
帰りのスクールバスは
それぞれを家付近まで送ってくれる。
乗車駅は学校だけだ。
今日の客はマールひとり。
どの席だろうとマールが好きに使って良い。
贅沢な空間だ。好きなだけどこの席を使おうかと悩める。
一番後ろの席に座ろうと決めていたくせに悩むのだから
コレはもう、彼の趣味としか言わざるを得ない。
ぼんやりと車内を見つめる間は
外の轟音はもう聞こえず
ただ、雨粒が窓を叩く音が気になる程度だった。
時折吹く風のため、床が揺れている。
奥の席へ歩いている途中、マールは
ポタポタと髪の毛からしずくが落ちていることに気がついた。
「我慢しなきゃな。」
頭を掻くように
マールは髪をかき上げ、
手についたしずくを振り払った。