レイコーン

誰もいない
貸し切り状態のバスの匂いは、からりと冷たく
湿った手で乾いた空気に触れる事ができる。

 

乗客の湿っぽい臭いだけが
妙に異臭を放ち、自分の臭いを感じる事ができた。

 

マールは手に持っていたカバンと傘を
自分の座る席の隣に置いた後、座った。

 

後ろの方からギシギシ歯切れの悪いワイパーの音が聞こえ、
窓の外を見ようとしたが外は暗く、雨に濡れた疲れた顔のマールが写っていた。
遠くを見つめるが、まるでトンネルの中にでもいるようでひどく視界が悪い。

 

「雨、すごいな」

 

一人しかいないせいか思ったことがついつい口に出る。
呼吸も整い、周りを見る余裕もできてきた。

 

服は表面上、濡れてはいたが、
中にまで染みてはいないから体は寒くなく、
家に帰って暖かくすれば問題ないのだろう。
なんとなくマールは服をはたきだした。

 

そんなことをしても
乾くわけはないのだがこんな事をしてしまうのは
マールのクセだ。

 

濡れた服はとりあえず問題ない。
だけど、大問題がひとつ。
気にすべきはカバンに入っている教科書。

コレばかりは体を暖かくしてもダメで
カバンの隙間から水が入っていたらかなり悲惨な状態になる。

 

「大丈夫だろうな・・・」

 

マールは恐る恐るカバンの中身を確認した。

 

「コレくらいなら大丈夫だな」

 
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