レイコーン
 
小さな勇気は運転手の方に届いたのだろうか?
運転手は帽子を深くかぶっていて
こちらからではよく顔を見ることができず
聞こえたかどうかはわからなかった。
 
マールは手にしていた本をギュッと握りしめ
マールは大きく息を吸い、一気に言い放った。
 

「あの・・・バス間違えたみたいなので下ろしてもらってもいいですか?」


ギットンギットンと
ワーパーのゴムはリズムを刻んでいる。

 

すると、運転手はマールの方を見ずに答えた。

 

「お客様、お席にお戻りください」

 

渋めの声。どうやら運転手は40代くらいの男性で
マッコリーニさんではないことが確認できた。
 
 
 
「ん?」

 

気のせいだろうか?運転手のいる方向とは
別の向きから声が聞こえた気がする。

 

「ここは違うので下ろしてください。」

 

マールは運転手の申し出をすかさず断った。

 

「ここ家から近いですし・・・」

 

手に持った荷物をぎゅっと握り締めながら
小さくぼそぼそと言葉が出る。


ここがどこだか分からないくせにとっさに出た嘘。 

これ以上、
知らない人に関わりたくなかった。

いや、それよりも気まずいこの流れ一緒にいたくなかったのだろう。

 

「・・・。」

 

何も言わない運転手をよそに
マールはすぐさま、バスを降り傘を差した。
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