凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「私に、お前の辛さはわからない」
やっと落ち着いた頃、涙を流す私を見守るかのように黙ったままだった彼女は言った。
「どんなにわかろうと努力しても、所詮は他人の痛み。お前の感じた量と同じだけの痛みを感じることは不可能だ」
そうだね、他人の痛みなんて安易に背負うものじゃないわ。共有したところで、何も現状は変わらないもの。
「それに、私は……お前が何者なのかも、よくわからない」
彼女は眉を曇らせる。
手拭いで頬に残った涙の筋を拭っていた私は、彼女の言いたいことを理解する。一番触れられたくないけれど、自分のことを正直に話す上では絶対に必要になってしまう要素。
「正直に、話してくれないか?」
どうしても気が引けてしまったけど、彼女が向ける瞳は相変わらずどこまでも真っ直ぐで。
「お前が、何故…昨夜、あの邸にいたのかを」
信じてくれるとは思えないし、納得してくれるとは思えない。馬鹿にしているのか、と着物のときのように怒鳴られるかもしれない。でも、逆に考えてみればこれはいい機会なのかもしれない、とそう思えた。この機を逃がせば、言いたくても、言えなくなってしまうかもしれない。
信じてもらえるはずはないけれど、今の私にとって信じてくれたらそれほど有り難いことはない。それなら―――
「私の話、ちゃんと最後まで……聞いて、くれますか?」
決心して、恐る恐る尋ねた。
「あぁ、もちろんだ。だが、その前に一ついいか?」
「?…その前に?」
不思議がる私をよそに、天井を見上げ、一言。
「そこにいるやつ、下りて来い」
えっ、人?!
つられて上を向こうとしたら、すぐ真横に何かが着地した。