凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「あ!」
顔を見た瞬間、思わず声を出してしまう。それは二度目の出会いとなる鞠千代だった。
「全く…。勝手に忍び込むなと言っておいたのに……」
「あ、有り得ないッ……!!」
呆れて目を細める東雲さんとは対照的に、何故か青褪めた顔の鞠千代は信じられない物を見てしまったとでも言わんばかりに目を見開いている。
「どうした?何が有り得ない?」
流石に疑問に思ったのか訊く彼女に、鞠千代は声を震わせながらもはっきりと告げた。
「しのちゃんが、あの、しのちゃんが……他人にやさしい言葉をかけ、更に!キッツーイ言葉を浴びせての怯えとかそんなんじゃなくて、純粋に感激で涙を流させることができるなんてッ……!!あ、有り得や―――ん!!!!」
両手で頭を抱え、大袈裟に叫ぶ。
思わず笑いそうになったけど、彼女の額にぴきっと青筋が浮かんだように見えた気がして、懸命に平然を装う。
「み、みみみ認めない!あたしは断じて認めない!!年がら年中仏頂面の朴念仁で通ってきたしのちゃんに、そんなやさしい一面があっただなんて…!!」
「お前ッ……私を一体なんだと思ってるんだ?!!」
「痛っ、いたたたた!!ちょ、ほっぺ引っ張んないで!!あたしの絹の如く滑らかなお肌が傷ついちゃうー!!」
―――数分後。
「悪かったな」
普段通りの仏頂面に戻りつつある彼女の横で、目に涙を浮かべ赤くなった頬を擦りながら鞠千代が正座する。
「では、話してくれ」
「……はい。私、実は―――」
呼吸を整え、話し始める。私が昨夜、あの家にいた理由を。非現実的かつ非科学的な〝幕末(ココ)〟へやってきてしまった経緯を―――