凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「―――それで、気づいたら……あの部屋に、いたんです」
私は自分がこの時代の人間ではないこと、昨夜、自分の身に起きた事などを全てありのままに順に話していった。途中、鞠千代が何度も話を遮ろうとすると、彼女がその都度、片手で制止してくれて、なんとか最後―――あの邸で目を覚ましたところまでを話すことができた。
話し終わり、しん…と静まり返った室内はなんとも微妙な空気に包まれる。
彼女は神妙な顔つき、鞠千代は最初こそ頻りに突っ込みを入れていたけど、話が終盤になるにつれ、唖然とした表情になっていった。今も二人とも押し黙ったまま、瞬きだけを繰り返している。自分たちの理解力の許容範囲を遥かに超えた内容に、一体何を言えばいいのか、どんな反応を返せばいいのかわからない、と無言であることが逆に二人の心情を在り在りと物語っていた。
やっぱり、こうなるよね……。
当たり前といえば当たり前の状況。想像していた通りの結果。私が逆の立場だったら必ず今の二人と同じ表情、心境になってたはず。いや、他人への関心が薄くなっていた私なら見捨てていたかもしれない。警察へ差し出すかも。話を聞いてもらえただけでも、有り難いと思わなきゃ。
「……し、信じ、られない……」
ようやく、鞠千代がぎこちなく言葉を紡ぐ。室内の時間が動き出した。
「じゃあ、あんた……その、あれ、なんだっけ?えーと……」
「平成、ですか?」
「そう、それそれ!!」
「その、へいせいっていう、今より二百年くらい後の時代から……桜に食べられて、やってきた……っての?」
こくり、頷く。
「……な、ななななな、なんてこった……!!」
頭を両手で抱え、芝居じみた台詞を口にする鞠千代。大袈裟な反応も、今は様になっている。
当然、だよね。やっぱり言わない方がよかったの?記憶がない振りを貫いた方がよかったんだろうか。