花の魔女
ナーベルが下に降りていったのと、見知らぬ貴婦人が赤いフードの従者を従えて訪ねて来たのはほぼ同時だった。
「ナーベルさんはどなたでしょう」
ナーベルは彼女の透き通って張りのある声に緊張しながらのそのそと手をあげた。
「私です……」
彼女はにっこりとナーベルに笑いかけ、優雅にナーベルに歩み寄ってきた。
長い金色の髪はくるくるとカールして、腰まで流れている。
頭にはお決まりのベールを被っていて、キラキラと光る宝石が散りばめられていてた。
シルクのふわりとした長いドレスを面倒そうに引き上げるのを、従者がさっと手伝った。
「あなたがナーベルさんなのね。お噂どおり、美しいこと。息子をよろしくお願いしますわ」
女性が丁寧にお辞儀をしたので、ナーベルもお辞儀を返した。
「はい……こちらこそ」
女性はふふ、と上品に口元に手を当てた。
「わたくし、アナベラと申します。息子はこの家の裏にある喫茶店の二階であなたを待っていますわ。厚かましいですけれど、そこへ行ってもらえないかしら。わたくしも、ナイジェルさんとお話したくてうずうずしているの」
アナベラはほほほと笑いながら、それでも上品に、ナーベルが口を挟めないくらいにペラペラとまくしたてると、ナイジェルのほうに体を向けた。
ナイジェルは少し緊張した顔になり、苦笑いをすると、
「ナーベル、行ってらっしゃい。お待ちですよ」
と言った。
その後すぐにアナベラが
「あら、編み物ですの?いいですわねぇ。わたくしにも教えてくださいな……」
とまたペラペラと話し始めた。
ナーベルはちょっと心配そうな表情を浮かべたが、入り口に立っていた従者に頭を下げてこっそり家を出ていった。