偽りの結婚



フワ……――――――

背後からスルッと回された手。

その大きな手が私の胸の下へ回されると、躊躇なくグイッと後ろへ引っ張られ、先程まで痛みを感じる程強く腕を掴まれていた男から無理やり引き離された。

男たちはその人物の登場に唖然としたのか、あれだけ離そうとしなかった腕の拘束をすんなりと解いた。

自分を背後から抱くのは誰かと確認する間もなく、その人物は口を開く。







「楽しそうだな」


鼓膜から浸透する低く甘いテノールの声。

耳から全身に伝うその声は、今まで押し込めてきた感情が込み上げてくるような感覚をもたらすもので…



力強く引っ張っておきながら、優しく腕に抱くその大きな手。

背中に感じる武人の逞しい胸板。

距離が縮まった時に感じた貴方の香り。


本当はその手が触れた時からなんとなく気付いていた…


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