偽りの結婚




頬には耐えきれずに流れた一筋の涙。

けれど、先程のような感情を露わにしたような泣き方ではなく、今度の涙はどこか虚ろな表情で流す涙で。

声を上げる事もなく、瞬きも忘れてただ静かに涙を流した。



「じゃぁ…お休みなさい」


ラルフと目も合わせずそう言うと、寝室を出るために動こうとする。




床にへたり込んだ体に力を込めて、立ち上がろうとした時―――



ガッと腕を掴まれ、次の瞬間にはグイッと力強い腕に引かれた。

いきなり引かれたためバランスを崩し、ラルフの胸に抱き込まれる体を止める事は出来ない。

そして、月夜に照らされて剣呑な光を放つラルフの瞳を視界の端にとらえる。



あぁ…やっぱり綺麗……



一瞬の出来事なのに、まるでスローモーションのようで。

薄明かりの部屋で鮮やかな光を放つ瞳に魅せられていると、ラルフとの距離がゼロになった。



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