偽りの結婚



「大丈夫。私がリードします」


ラルフはそう言って目の前にあった私の手を取る。





ドキッ――――

ラルフの手が触れ、途端に心臓がドキドキと五月蠅く鳴り始めた。

一週間ぶりに触れるラルフの手はやはり大きくて温かかった。

噴水のすぐ目の前までくるとラルフは私の腰に手をあて、グッと自分の方へ引き寄せる。





「え…あっ…!」


私は勢い余ってラルフの胸へ倒れ込んだ。




「す、すみません」


頬に熱が集中し、心臓が早鐘を打つ。

慌てて離れようとするがそれはラルフの腕によって阻止された。

そればかりか、より力を込められて抱き込まれる。




「このままで。ほら、ホールから曲が聞こえるだろう?この曲に合わせて踊ろう」


甘く低く響く声で囁かれ、身体から力が抜ける。

コクリと、一つ頷くのが精一杯。

ふわふわとした感覚に酔いながらも耳を傾けると、僅かだがホールの方からスローテンポの曲が聞こえた。

そしてゆっくりと踊り出す。





< 536 / 561 >

この作品をシェア

pagetop