偽りの結婚
「大丈夫。私がリードします」
ラルフはそう言って目の前にあった私の手を取る。
ドキッ――――
ラルフの手が触れ、途端に心臓がドキドキと五月蠅く鳴り始めた。
一週間ぶりに触れるラルフの手はやはり大きくて温かかった。
噴水のすぐ目の前までくるとラルフは私の腰に手をあて、グッと自分の方へ引き寄せる。
「え…あっ…!」
私は勢い余ってラルフの胸へ倒れ込んだ。
「す、すみません」
頬に熱が集中し、心臓が早鐘を打つ。
慌てて離れようとするがそれはラルフの腕によって阻止された。
そればかりか、より力を込められて抱き込まれる。
「このままで。ほら、ホールから曲が聞こえるだろう?この曲に合わせて踊ろう」
甘く低く響く声で囁かれ、身体から力が抜ける。
コクリと、一つ頷くのが精一杯。
ふわふわとした感覚に酔いながらも耳を傾けると、僅かだがホールの方からスローテンポの曲が聞こえた。
そしてゆっくりと踊り出す。