偽りの結婚
ラルフのリードは本当に上手かった。
ダンスの経験があまりない私でも滑らかな動きが出来る程。
絶妙なリードで身体が勝手に動くのだ。
月明かりが照らす幻想的な空間の中、軽やかにステップを踏む。
ただ黙って見つめ合う。
仮面越しに見上げたラルフは綺麗な顔で微笑んだ。
不意打ちだった。
仮面越しにもかかわらず視線を逸らし、顔を赤くした。
このまま時間が止まれば良いのに…
私は幸福に満たされた時間の中そう思う。
深いブルーの瞳に映っているのは自分一人。
令嬢たちでもソフィア様でもない…私だけ。
幸福感と切ない気持が支配する中、静かに踊り続けた。
長いようで短い一曲が終わると、私は自らラルフの手を離す。
「ありがとう…ございました」
そう言ってドレスの端を持ち、腰を折る。
「こちらこそ」
ラルフも優雅に一礼する。
二人の間にはもどかしい距離…