偽りの結婚
「また自分の言いたいことだけ言って、僕の元から離れようとしたのか?」
距離を取ったときに見上げたラルフの顔は少し怒っているような、切なそうな表情をしていた。
切ない表情も交じっていたことに動揺するが、惑わされるわけにはいかない。
「人違いです…離してください…」
渾身の力で振りほどこうとするが身動き一つできない。
片手にも関わらず涼しい顔をして私を抱きしめるラルフは余裕の笑みを浮かべて口を開く。
「ではこれは何だ?」
そう言って首元の髪をサラッとかき分け、首筋を撫でる。
「っ……!」
まさか……
ラルフの指が撫でた先には小さく赤い所有印。
もう消えたと思っていたのに…
未だうっすらと色づくその痕を今更隠そうとしても遅かった。
「君はシェイリーン・スターンだ」
ラルフは悠然とそう言い、もう一方の手でスルッと仮面の紐を解いた。
カランッ―――
「ぁっ……」
仮面が落ち素顔が露わになる――――
その時にはもう隠しきれない涙が溢れていた。