揺らぐ幻影
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空に空と音を付け、星を星と呼び、月は月として見る。

当たり前に理解している訳を本当は把握していない。


近藤洋平を洋平と名付けた意味を知りたい、それは図々しいことなのだろうか。

どんな両親に育てられて、どんな愛を囁かれ、彼は彼として存在するのだろうか。

プライベートに踏み込めない部外者は、他の子が彼に近付いてほしくないと吠えるしかできない。


近藤を知りたくて、結衣という田上結衣を知ってほしくて、

メールをした日はカレンダーに丸をしてしまいたい。

いや、ハートでしるしをつけてしまいたい。

一日ぶりのメールに緊張する胸は綺麗なハート型に変形しているだろう。


《もうすぐテスト始まるね。世界史遅れてるからプリントの嵐》

我ながらつまらないなと思う。
アルバイトか授業の話しか展開がないなんて、持ちネタが少な過ぎる。

バスで相席した人に、『ボタン押して下さい』と頼むくらい、

薄っぺらい会話にならない単調な音のやりとりだ。


しかし、結衣は決意している。

意味のないことに意味を見出だせるうちは、未来は明るいのだと、

勘違いのお天気さん、晴れた空になるはずだと。


何が目的でアルバイトをしているのかと聞かれたら、恋愛のためだと答えたい。

飲食店勤務という共通点があるから、張り切って働ける日々はとても大切だ。


《テスト頑張ろ。特にあなたは英語を笑。俺テストよりコンペ忙しいかも》


  コンペ?

《学年末の赤点課題悲惨らしいよ、午前補習授業とか軟禁。 コンペて何の? 服?》

正直コンペが何か分からない。

カタカナ語を平気で用いる彼はどこか都会的で、世界が違うと怖じけづいてしまう。

服コの生徒は見た目はチャラけて軽く見られるけれど、

実は一番将来設計をしっかりとしていると結衣は分析している。

未来の自分が何をしたいから、今何をしないといけないのかをきちんと理解して行動していると感じる。

それを中学三年生で既に選択したなんて凄いと感心するしかない。


予断だが、だからこそ、自由な服装をしようと細かく注意されないのだろう。


  しっかりしてる

  ……私とは大違い

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