揺らぐ幻影

当然こちらに向かってくることになるので、結衣と近藤の距離がどんどん縮む。

大好きな顔のパーツ、真ん中に寄った目もすっと伸びた鼻も、センスの良い着こなし方、シャツのボタンもネクタイも、だんだん輪郭がはっきりとしてくる。


  どうしよ、どしよ

  緊張するし

二人の位置関係と連動しているのか、先程よりも胸が大袈裟に暴れ出すものだから、

心臓が倍の大きさになったのではないかと錯覚する程に、緊張して困るばかりだ。


無意識に彼の姿を目に焼き付けようとして瞬きを忘れた瞳は、風を浴びて痛む。

ソフトコンタクトレンズをしているなら、今頃乾いて外れてしまっていることだろう。


恋をすると誰しも異世界にトリップしてしまうものだ。

例外なく結衣もまた、意中の彼の姿を一目見ただけで、脳内お花畑に瞬間移動してしまっていた。

乙女が説明するとしたら、そこは甘い花の香りと好きな人(近藤)の輝く笑顔で爽やか過ぎる世界らしい。

毎日がピクニック日和、らんらん言いながら手作りお菓子をポッケに入れてお散歩をすることが日常なんだとか。

ふんわりとしたスカートの裾を両手で広げて、歌いながらダンスだって出来る非現実的な世界は愛に満ちている。


「ゆいちゃん可愛い〜」

「結衣みたいな彼女ほしい」

――と、ピンク色の世界に突然大きな声がし、びくっと身を小さくすると同時に、

結衣はようやくこちらの寒々しい世界に戻ってきた。


  近藤くん!

短く切って太腿が飛び出たスカートの裾を、プリーツが乱れるくらい無意識に握りしめる。


「田上さん可愛い、羨ましいー」

「結衣ちゃん憧れるー」

拡声器を使用した音量の声の主はもちろん愛美と里緒菜で、

喩えるなら、静かなカフェで新人さんがお盆を落としてしまった時くらいに値する――とにかく他者に衝撃を与える不自然な会話のボリュームだった。


そのため、協力的な二人の大きな爆音に反応したのは結衣だけではなかったのは言うまでもない。

< 42 / 611 >

この作品をシェア

pagetop