揺らぐ幻影

当然まだ告白をしたくない。

好き嫌い以外の『知らないから』の返事だと、早起きの努力が報われないからだ。

そんな理由で振られたら、腹が立つし納得できない。

誤解しないでほしい。うまく行く見込みがないから言いたくないのではない。

もっと向こうのことを知って、向こうにも自分をたくさん知ってもらって、

対等な距離感で、顔と名前とできれば少し性格を知ってもらった上で告白をしたいと結衣は思っているのだ。

――それは決して臆病なんかじゃない。


『まあ付き合っても良いかな』のレベルは嫌で、多少なりとも彼に自分を好きになってもらえてから想いを伝えたい。


それは恋愛準社員にはなかなかハードルが高いことで、

本当に他人の状況から抜け出せるのかと考えたら考えただけ落ち込んでしまいそうになる結衣だが、

幸運にも彼女には恋愛マスターの友人が二人も居る。


愛美と里緒菜。
通常の王道な少女漫画では、タイミング良くばったり出会ったり、

都合良くひょんな運命が待っていたりするらしいが、

残念、結衣が生きる世界にはトントン拍子といった甘い展開は存在しない。


家族は揃っているため、彼が母親の再婚相手の連れ子にはならないようなのでドキドキ同居の予定なんてないし、

既に学校は同じのため、彼が転校してこないからワクワク隣の席になる期待もないし、

ロマンチックな占いは信じないため、彼と前世は繋がってなさそうだからデジャヴュを察する予感もない。


話をまとめると、可愛らしい主人公のようにただ平凡に生活していても、

結衣が突然の恋ハプニングに見舞われる未来はないのである。


神懸かり的な奇跡はない。
なぜなら、ここにはリアルしかないから世界だから、美味しいストーリーは夢物語にすぎない。


となると、振られても後悔しないように自力で励みたいと思う。

頑張ると近藤に近付ける気がするから、無の状況だと伸びしろはあると信じたい。


なんせまだスタート地点にさえ立てていないのだ。

何もないところに突っ立っているのが、今の結衣の状態で、

東西南北、どれがゴールなのか見当もつかない。


ならば彼女が今できる一番楽な方法は……――?


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