揺らぐ幻影
偶然奇遇作戦。
つまり、今し方『結衣結衣』『田上結衣』と連呼したのは、
三人娘なりの初期アプローチだったようだ。
ターゲットの耳に“ユイ”という音を入れ込むことを目的に実行したまでだ。
でなければ、愛美と里緒菜の発言内容は意味不明過ぎて理解に苦しむしかないし、
非日常過ぎて違和感しかないため、困惑しか生まれないことだろう。
こつこつ頑張ろ……
まだ始まったばっかだもん!
もう小さくなってしまった近藤の背中を眺め、友人二人と一緒に頑張るのだと結衣は決意する。
好きになったからといって、相手が好きになってくれる保障はない。
――『好きです、付き合って下さい』『はい、こちらこそ』など、
自信のない彼女には遠い話で、近い未来に可能性がないと胸を張って言える。
だからこそ特別可愛くない彼女は、マイペースだろうが地道に奮闘しようと誓う。
ない縁なら紡いで、ない可能性なら作れば良い。言いがかりなら楽勝だ。
所詮やっつけ仕事なので結衣一人ではぼろが出るけれども、
そこには背中を押してくれる愛美と里緒菜がいるため安心だろう。
一人じゃない。一緒に悩んでくれる人がいる。だとしたら女子高生的に無敵じゃないか。
ほら、道徳の教科書も喜ぶ素敵思考になれば、ドキドキとズキズキの恋に、ポカポカの擬音が加わる。
友人のあたたかさ。
こんなに友情賛歌しているのは恋をしたからで、
だとすれば意外とドライな人間なのかという疑惑には目を瞑ろう。
そんな彼女、お察しの通り絆とか親友とかツレとか仲間とか、熱い言葉が得意ではなく、
語り合う感じがこそばゆくて、『どうした?』とツッコミたくなってしまうタイプだ。
クラスメートには、信頼とか絆とか永遠とか素敵な単語が好きな子たちが居り、羨ましいと思う。
結衣はそうはいかなくて、痛いと引いてしまう故に、そういうことに浸れる素直さは尊敬したい。
どうして自分がこんなに捻くれているのか――この恋を通じて何か理解できたらいいなと願う。
純愛に共感できるピュアガールになれたらと、今のところ鳥肌だけれど、
仮にも現役女子高生だから、皆みたいにラブリー脳みそになってみたい。