揺らぐ幻影



さりげなく香るのはチョコレートの可憐さで、

ずっと楽しみたいから、蕾のままでいてほしいと無理なことを願ってしまう。


照明を反射させて光り輝く木目も綺麗に浮かぶフローリングの床、

気分転換に掃除をした部屋は心が落ち着くはずなのだが、

どういう訳かざわついた胸の奥には埃が溜まったままだった。


ただ話して、ただ展覧会に行って、ただそれだけなのに暗くなり気分が乗らない。

  クラスメートだし

  普通じゃん

自分の中にあるナンデの気持ちは頭を振るうことで払い出し、

《展覧会楽しかった?》とメールを送った。

たいていあの人は三十分経つか経たないかで返事をくれる。


たまに送った瞬間に返してくるマメな子がいるが、

早過ぎて引いてしまう節のある結衣には、彼のそれは調度良い間合いだったし、

やりとりが始まってノリが掴めた時からの即返事のスピーディーな頃合いは、それはそれで好印象で、

だから、近藤を好きになる一方だ。


《真面目に色使いとか参考になったー、ってインスパイアとパクリの境界線は自覚しますよ俺は笑》

一見普通の文章だが、なぜか差出人が興奮しているのがよく伝わる。

お遊び感覚ではなく真剣だと分かったからこそ、無性に虚しかった。


  私じゃ話合わないよね

  色彩、とか知らないし

  てか展覧会って何、展示会?

内容的に結衣よりも静香とメールをした方が意気投合して盛り上がるのではないだろうか、

そんな分析を行うと切ない。


  多分、合わない

デザインの知識もセンスもない。

仮に結衣と近藤とで今日 展覧会に行ったとしても、会話は噛み合わなかったし、

ますます遠い存在だと劣等感を覚えたことだろう。


作品を眺めて輝く彼に対して、つり合わないと凹んだに違いない。

それにひきかえ同じ感性をした静香、二人は今日どんな議論をして、

どんな風に高め合ったのだろう。

距離が近付いたりなんかしたのだろうか。


  ――。

これ以上、静香絡みを考えると人として足りない部分が辛いので話題を変えよう。

結衣の心に張り付いた黒い塊に、たとえ星屑がちりばめられても絶景にはならない。

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