揺らぐ幻影
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暗い気持ちを追い出すには最適な天井の下には、

深呼吸をしたくなる美味しそうな空気が漂っている。

ヤキモチをやくよりも、努力をする方が楽天家らしいはずだと信じ、

生まれて初めて知った嫉妬という感情と、上手く付き合っていこうと昨晩決意した。



「カッチーン」
「それエビグラサン」

「ウケる、レッド」
「アフレコ? 大ケケ笑える」

愛美と二人で談笑しながら登校し、教室で里緒菜が加わり三人になる予定だ。

ローファーを脱いで、揃いの落書きをしたスリッパで階段を上がる。


ピンク色を黒で縁取られた★MAYURI★とは、三人の名の頭文字を繋げたもので、

足元から仲良しこよし女友達さを証明する役割を果たしている。

GWが明けてどこか一つのグループが描いたことがきっかけで、

あっという間に流行り、学年の七割が落書きをしている。

皆がしていると、皆が真似をする不思議な一体感は何とも説明しがたいが、

学生における自然現象であると言えるだろう。


階段を上がる愛美がバックをお尻の後ろで持つので、それはナルシストだと結衣が笑い飛ばす。

この調子なら頑張れる。
気分を入れ替え元気いっぱいな少女の足を廊下に縫い止めたのは、とある二人の姿だった。


  なんで?

血液を送る心臓をおかしくするには事足りる恋心を操る存在、

壁にもたれて廊下にしゃがみ込む二人は、ぺちゃくちゃと楽しそうにお話をしている。


黒染めをしたら、青光りする人と赤味が強くなる人が居て、

美容師ではないので、専門的なことは分からないが、

髪の毛を茶色に染める時に、愛美のような緑系と里緒菜のような赤系があるらしく、

静香と近藤は赤系のラインなのに、結衣の顔には赤系が似合わず、こっくりした焦げ茶色が馴染む。

それさえ悲しいのはなんでなのだろう。


「あー、ぽこりん発見、ほら結衣、おはよしてきな」

肘で結衣の脇腹を小突き、愛美がラッキーチャンスだと囃す。

自然に挨拶を出来るなんて今までを思うと好機だと理解しているため、

おはようをしに行くべきだと頭では分かっているし、

正直、愛美に教えられなくても好きな男子ぐらい自力で見つけられていた。

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