揺らぐ幻影
寒空の下、皆が励むサッカー試合でありながらたらたら走る二人組が、
こちらを意識してか結構な近さのあるラインの際で足を止めた。
「かわい、一年?」
「一年。」
「若」
「普通にタイプだやべぇ」
控えめのつもりらしいが、風に乗ってまんま聞こえるから可笑しくて、
愛美が厭味ったらしく「丸聞こえダセェ」と皮肉を口にする。
自ら進んで囃しておいて、いざ食いつかれると小ばかにするのが女子生徒イズムだ。
「俺右ん子」
「あ、被るな俺も」
「じゃ真ん中」
「じゃあ左」
「だったら右」
「卑怯な、右は俺んだ」
淡々と判定しておきながら綺麗な笑顔を少女らに向けることが、今度は男子高生イズムだ。
それさえ冷笑している癖に、里緒菜は先輩と叫び愛想を振り撒いている。
「結衣選ぶとか奴ら目悪くね?」と愛美が悪口を言えば、「眼医者行け」と里緒菜が文句を続け、
そうなると、「アタシ可愛いから。ごめんなさい?」と、高飛車ぶるのが結衣の役目だ。
こういうことはよくあった。
くどくなるが髪の長い女はピュアガールではないので、
ある程度、男ウケが分かってしまっている。
同級生より都会的な香りがする愛美はキツそうで、
オシャレな里緒菜は少々軽そう、それが男子目線であって、
そんな二人とつるめば、結衣の存在が必然的に人気になるのである。
もしかすると、
「うーざ、出たビッチ」
「自己愛半端な」
こうやっておどける二人は、わざとここに結衣を連れ出したのだろうか。
先輩たちが彼女を選ぶと分かっていて、
つまり、『まあまあ可愛いんだから自信を持ちなさい』と間接的に伝えるつもりだったのではないだろうか。
そう、静香と比較し消沈中の乙女心を活性化させようとしてくれたに違いない。
可愛くないと落ち込んでいる背中を押してくれようとした?
……なんか、
お調子者の子を元気にさせてくれようとした?
曲解でもいい、その優しさが嬉しい。
たとえ近藤に好かれない自分なんて大嫌いにしろ、大好きな畏友が好いてくれる自分なら嫌うに嫌えない。
言葉の水を注がれて、枯れたお花はまだ咲かすことはできないが、干からびたくらいには戻るのかもしれない。