揺らぐ幻影



精神面が大袈裟なまでに身体へ出たのか、どっと疲れたアルバイト、

ふくらはぎがむくんだようだし、足裏が痛いように思う結衣はソファーに寝転がり、

わざとらしく深いため息をついた。


エンターキーを弾く音や貧乏揺すり並に、人を不快にさせると言われるため息、

ダメだと分かって繰り返すのは子供だと知りつつ、

しつこく大きな息を吐き出し、全てにうんざりした。


もし零した空気が固体なら、リビングにその物体が溢れて足の踏み場もないことだろう。


「はあ……」

ちらりと目撃したのだけれど、いや、ばっちりこの目で見たのだけれど、

移動教室も近藤と静香はぴったりだった。


そこは結衣の居場所になる設定のはずだと闘争心が燃えられず、

悲しみと妬みに心が萎んだ。

怒りのバイタリティー溢れる強者になれず、弱者は凹むだけだった。


今週は学年末テストが金曜から始まるので、勉強の邪魔はしたくないため、

というより自身も机に向かわないと補講の嵐になる恐れがあり、

とりあえず今週は始まったばかりの火曜日なのだが、

来週までメールはしないことにして、今日が今週最後のメールにする予定だ。


《お母さん居ないからラーメン、手抜き》

中身のない文章でも最近はやりとりをする内に発展して面白くなるので、

あまり深く考えずに送信ボタンを押す。


もう十一時も回っており、アルバイトにしろ遊びにしろ、

しばらくすればあの人から返事がくるだろう。


案の定、二十分経つか経たないかのあたりで甘い着信音が響き、勢いよく結衣は反応して携帯電話を開いた。

数拍遅れてキラキラのストラップが泳ぐ。


どうして――文字を読み終わる前に強く下唇を噛んだ。


《その調子で太りなさい笑。いま天覧の飲み会中だからまたメールする、ごめん、おやすみ。トイレより笑》


どうやら近藤は静香たちと盛り上がっているらしかった。

大学生の人たちと仲良くご飯中らしかった。

結衣のメールは邪魔にしかならないようだった。


  ……、

だって誤字がある。多分きっと絶対ちょっと適当に近藤は結衣を扱った。

多分きっと絶対ちょっと結衣より飲み会を重要視した。

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