揺らぐ幻影
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花咲き誇る春はまだだと知らせる枯木、芽が出る気配はない。

代わりに霜が光っており、今朝に比べて昨夜は寒かったのだと主張している。


  なんで、?

不安や自己嫌悪でなかなか寝付けず、結果的に遅刻した結衣が見たのは、

アトリエから出てくる近藤の姿だった。


そして、ときめく胸は十秒、

「結衣ちゃーん、おは」

もう一人、彼に似た髪色の生徒を発見し、十一秒目はなかったことになった。


「、おはよ」

なぜ二人が一緒なのかと考れば、いつもより低い不細工な声が出た。

そしてあろうことか「おはよ」と、好きな人が近づいてきてくれたのに、

顔を見たくなくて返事もせず、結衣はわざとらしく視線を外してしまった。

一度避けると気まずくて、日の光りを受け赤みが増した髪の毛に向かって失笑を送っていた。


自転車のカギをウサギのお財布にしまい、教室へと足を進めようとしたのだが、

同じ速度で隣に歩くのは静香だ。


ここで振り払って走り去ればTHE感じ悪いオンナ。
ただでさえビッチだ、これ以上我が儘ガールになりたくなくて、

やむを得ず、気に食わない女子生徒の方へと首を傾けた。


「良かった。デザイン系じゃない子?、の貴重な意見をインタビュー。朝から大変ー」

「……?」

突然スケッチブックを目の前に広げられ、視界が遮られる。


その爪先も丁寧にデコレーションされており、巨大なビジューがキラキラと輝いていて、

飲食店で派手なネイルが出来ない結衣は惨めに感じた。


  ……。

自分は可哀相、自分なんて、どうせ自分は、そんな悲観的なフレーズは構ってちゃんには欠かせない。

自信がない? つり合わない? 勇気がない?

それらは偽りで、他者に気の毒な自分をアピールし、

心配してほしいという深意があるということになかなか本人は気付けない。

更に言えば、いちいち被害者面をして振る舞う要因は単なる嫉妬心だ。


結衣は知らない。誰かをひがむ時は、自分に足りない魅力を習得するチャンスだということを。

憧れる部分を諦めるから劣等感を覚えるのだ。
頑張るしかないというのに、誰かに八つ当たりをするのは間違いだ。

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