揺らぐ幻影
お花畑ビジョンで服飾コースの天井を仰げば、流星群に見えなくもない。
頑張ろう、頑張りたいと思える内は頑張れると教えてくれたのは近藤だ。
静香と付き合っていない今は間に合う、今頑張らないとチャンスは二度とこない。
スカートの裾を掴み、結衣は勇気を振り絞った。
「あの、それ寝不――「静香ちゃん! あげる、お料理上手な田上さんから!」
ポジティブシンキングを奪うのは、近藤であって静香であって――結衣の活気を吸い取って、彼は別の子に微笑んだ。
――、
……、? え
「やった、結衣ちゃん優しっ」
両肩を持ち上げ喜びを表現し、ナチュラルにモテ子らしい仕草ができる静香が羨ましい。
ギャグなくらいの勢いで、彼女はラップを外しあっという間に一口頬張りこう言った。
「おいしー、静香こんなおいしーの初めてーリアル感動ー」
なかなか結構な感想を。
どんだけお腹が空いていたのかと疑問に思うくらいのスピード技で、
というより一口がおっきくて、カップから覗いていた山の部分が消えていたので驚くしかなかったため、
結衣は悲観する状況を逃してしまい、ただただ傍観していた。
「嘘っぺーな」と笑う好きな人は、美味しいと幸せがる人を柔らかな表情で見守るから辛い。
これだから結衣が下手に自信を持つと駄目なのだと物語っており、ますます虚しくなってしまう。
近藤の視線を独り占めできる静香が羨ましい。羨ましいばかりだ。
「んーん、おいしーよ、食べてみ」
それはよくあること。
一口交換はよくすること。
中学校の頃からグループ内で仲が良い男子とは、結衣も躊躇いなくジュースを貰ったり、フォークを貸したりした。
意味がないことも、好きな人は意味を作るらしい。
間接キスでやいのやいの言う時代なら、小学生でおさらばしたじゃないか。
泣きたくなる、泣きたくなる。
今泣いたら駆け引きができる。賢いはずだ。
小悪魔は涙を小出しにしてナンボなのだから泣くべきだ。
「ほんとだ、美味し」
どうやら近藤のために作ったマフィンは、静香との仲を深めるアイテムになってしまったらしい。
二人は美味しいと笑う。
彼の笑顔は結衣が作りたいのに、静香が操った。