揺らぐ幻影

愛美と里緒菜、市井や大塚のお陰で約二ヶ月かけて頑張って近付いた距離は、

ここ一週間で一気に離れてしまったし、それに対して近藤はなんともないようだし、

だから結衣ばかりが好きな人の背中を追いかけることに疲れた。


どうして何も変わらないのか。
どうして静香と言うキャラクターが増えるのか。


なんだかバレンタインは意地悪だ。

全然片思い組の味方をしてくれやしない。


これを結衣が自分で書いた三流脚本で物語るならば、

とんとん拍子に彼はヒロインを好きになってくれているはずだ。

むしろ入学式から惚れられているべき運命を大胆に伏線で張っておく。


けれど脚色ができない現実世界、近藤は何もしてくれない。

どうやら彼は結衣と接点を作る気もないらしい。

ご都合主義の穴がある展開でもハッピーエンドなら構わないのに、そうはいかないリアルは厳しい。


  ……。

事あるごとに掴んでいたせいか、ウサギのお財布は随分と黒ずんでいる。

左にある校舎のベランダには、太陽を存分に浴びてそっくりな、

例えば互いに唇を寄せた時、髪の毛の境目なんて分からないのだろう。



「なんか、だめかも、もう。」

渡り廊下の手摺りへぶら下がるようにして結衣はしゃがみ込んだ。

目の前にはデコボコな壁、これで左色の景色は視界に入らない。


「なんで?」

とぼける愛美もそれに気付いているはずだ。

なぜなら最近あまり頑張れと言われなくなっていた。

前は結衣に指令をしてくれていた里緒菜も、黙ってそれには触れなくなっていた。


ダイエットをする前から、スカートのアジャスターは一番詰めていたのだけれど、

最近はウエスト部分がくるくる回るようになった。

体重計の数字だけではなく、目に見えて痩せた証拠もあるのに、

嫉妬という細胞が増えたからだろうか、

身体は重たくて動くのもだるくて、立っているだけで辛かった。


さあ、なぜこのようにオーバーになるのだろうか。

恋を知った結衣は嫉妬して苛々するし、悲しくて空気を読まないし、

なんでもないことに大袈裟になり、消沈してしまう。

凄くしょうもない女子力高い奴の傾向、構ってちゃんになってしまった。

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