揺らぐ幻影

こんなことになるなら、バレンタイン当日にはっきりさせた方が良かったのかもしれない。

結衣だって子供ではない、おおよそのことを理解しているつもりだ。


――あの日、

近藤洋平に『今すぐ付き合って』と、本当は簡単に言えた。


そして彼が快諾してくれることも予測がついたし、恐らく間違いではないと思う。


軽く。

結衣だから彼女にしたいのではなく、他の女の子でも構わない基準の軽さで永遠の交際ってやつで慕ってもらえる。


お約束の恋愛面に無自覚な天然ミラクル鈍感姫ではないため、

結衣は近藤に嫌われてはいない自分を察するスキルは人並みにある。

そう、付き合うイコール、古臭いニュアンスで提言するなら、性のパートナーってやつにはなれた。


都合が良い時に付き合ってくれる女ってだけの存在でなら、

彼に必要とされるレベルであることくらい分かる。


普通に生活していたなら、人の心理を把握するスキルはあるため、

例えばお決まりの話、体のみの関係から実は両思いで、

すれ違いを乗り越えハッピーエンドなど、妄想だと引く姿勢をとれる。

現実の男の子はそんなに立派ではなく、切り捨てる時はさようならで、

情けなどなく割り切った関係なのだ。

それでも乙女は彼を一途に想い貫くらしいが、

共感できないし世間知らずだと呆れる。


  ……。

付き合っていない今、こんなに嫉妬する結衣なのだから、

浅ましい彼女はやはりバレンタインにOKの返事を貰わなくて良かったのかもしれない。


あの時交際を要求していたなら、結衣は近藤ではなく自分を愛する未来を歩もうとしていたことだろう。

経験はないが、だいたい心情は合っていると思う。

『アタシなんか都合が良い女なのにバカみたい』、『からだしか求められない切ない』、

『泣いても無駄、自分で選んだんじゃない』、『一時でもアタシを愛してくれたらいい』、

『何も望まないつもりだったのに欲張りになったのかな』などと、

苦さを抱く未来を手にすると想像できる。

そしてまた、さもしい結衣は切ない自分、悩む自分、報われない自分、

涙を我慢する自分などに入れ込むこと、これが一番怖かった。


もう少し簡単に言うと、

< 527 / 611 >

この作品をシェア

pagetop